単項マイナスと構文解析
単項マイナスとは 単項マイナスと括弧 括弧なし単項マイナスを許容する場合のBNF calcの場合
今回の目標はインスタンスです。 インスタンスを説明するために、ローカル変数と文字列オブジェクトを事前に扱います。
変数にはローカル変数、インスタンス変数、クラス変数がありますが、今回はローカル変数のみ説明します。
ローカル変数は(1)英小文字またはアンダースコア(_
)で始まり(2)英文字、数字、アンダースコアが続きます。
例えばabc
、_d55
などは変数を表すことができます。
これらはメソッド名にもなりうるので、それが変数なのかメソッド名なのかはプログラムの中で判断します。
ローカル変数はその変数に対する代入文がはじめて現れた時に、代入と同時に定義されます。 一度定義されると、そこからその変数が宣言されたブロック、メソッド定義、またはクラス/モジュール定義(次回以降に説明)の終りまで有効です。 この有効範囲をスコープといいます。 メソッド定義の外側で定義されたローカル変数はメソッド定義の中では参照できません。
abc = 10
print abc
print "\n"
def abcdefg
print "Hello world.\n"
print abc
print "\n"
end
abcdefg
このプログラムexample5.rb
として保存し、実行するとエラーになります。
$ ruby example5.rb
10
Hello world.
example5.rb:7:in `abcdefg': undefined local variable or method `abc' for main:Object (NameError)
print abc
^^^
from example5.rb:11:in `<main>'
$
プログラムを順を追って見ていきましょう
abc
に10を代入するprint abc
で10が画面に表示される=>実行画面の最初の10abcdefg
を定義する。
メソッドは
abcdefg
を呼び出し、実行する
abc
の値を画面表示しようとするが、abc
が未定義なのでエラーになる=>3行目以降のエラーメッセージabc
はメソッド内部では参照できないから。
つまり、メソッド内部はスコープではないからです。abc
をメソッドの外に移せば、スコープになるのでエラーにならずに10が表示されます。
abc = 10
print abc
print "\n"
def abcdefg
print "Hello world.\n"
end
abcdefg
print abc
print "\n"
実行すると
10
Hello world.
10
また、メソッドの中でローカル変数を定義すると、その変数はメソッドの中だけで有効で、外はスコープ外になります。
変数には文字列を代入することもできます。
a = "Hello world.\n"
b = a
a = "Good by.\n"
print b
ちょっとややこしいプログラムなんですが、これを実行すると画面には何が現れるでしょうか
実行してみましょう
Hello world.
1が正解でした。 プログラムを順に見ていきます。
a
に文字列”Hello world.\n”が代入された=>aは文字列”Hello world.\n”を指しているb
に変数a
の指している文字列を代入した=>bは文字列”Hello world.\n”を指しているa
に文字列”Good by.\n”が代入された=>aは文字列”Goodby.\n”を指している最後の代入は変数’b’には関係ありませんから、bは相変わらず文字列”Hello world.\n”を指しています。
Rubyの文字列は可変です。 これはRubyの特徴で、良い場合と困る場合があります。 可変であるためにバグを生みやすいということは言えると思います。
例えば、文字列は[]=
を使って文字を書き換えできます。
a = "free\n"
a[0] = "t"
print a
このプログラムを実行するとtree
が表示されます。
a
に文字列”free\n”が代入されたこの[]=
というのは配列のn番目の要素を代入するのに似ています。
文字列は文字の配列だと考えれば自然な演算です。
さて、次のプログラムを実行すると何が表示されるでしょうか
a = "free\n"
b = a
a[0] = "t"
print b
実行すると、”tree”が表示されます。 2が正解です。 なぜでしょうか?
a
に文字列”free\n”が代入されたb
に変数a
の指している文字列を代入した=>bは文字列”free.\n”を指している=>aとbは同じ文字列を指していることに注意何となくわかったでしょうか? 正しく理解するためには、インスタンスを理解することが必要です。
Rubyでは、文字列も数字もプログラムの対象になるものはすべてオブジェクトです。 オブジェクトはその中に状態を保ち続けることができる変数とメソッドを持ったもので、そのオブジェクトがどういう変数やメソッドを持っているかを定義しているものをクラスといいます。 クラスに基づいて、メモリ上にオブジェクトを実現したものをインスタンスといいます。 ひとつのクラスに対して通常は複数のインスタンスが可能です。
なお、「オブジェクト」と「インスタンス」という言葉はそれぞれのプログラミング言語により、使い分けられています。 Rubyの場合は両者は同じと考えて差し支えありません。 ですが、「インスタンス」というときは、「クラス」をメモリ上に実体化したというニュアンスが強くなります。 また、オブジェクトは「オブジェクト指向」という概念的な意味で使うこともあります。
例えば文字列のクラスはStringといいます。 “Hello world\n”というダブルクォートで囲まれた文字列がプログラム中に現れると、RubyはStringクラスのインスタンスを作ります。 インスタンスはメモリ上に作られ、その文字列がHello world\nであるという情報や、String固有のメソッドがあるという情報を保持します。
a = "Hello world.\n"
RubyはまずHello world\nという文字列のインスタンスをメモリ上に作成し、その場所を変数a
に代入します。
変数aはそのインスタンスを指しているだけです。
a = "Hello world.\n"
a = "Good by.\n"
a = "Hello world.\n"
b = "Hello world.\n"
この場合、Hello world.\nという文字列インスタンスが2つ作られます。 aとbが指しているインスタンスは別のインスタンスです(文字列としては同じですが)。 インスタンスにはオブジェクトidという番号が振られ、区別できるようになっています。 オブジェクトidはobject_idメソッドで知ることができます。
print "Hello world.\n".object_id
print "\n"
print "Hello world.\n".object_id
print "\n"
これを実行すると
60
80
のようになります。 (あなたが実行するとき60や80とは違う数字になるかもしれません)。 同じ文字列だが、インスタンスとしては別だということがidの違いからわかります。
もう理解できたとは思いますが、最後に1問。
a = "free\n"
b = "free\n"
a[0] = "t"
print b
このとき、
のどちらですか?
答えは1です。 aとbは別のインスタンスを指しているので、aの指している文字列が変わってもbの指している文字列は変わっていません。
a = "free\n"
b = "free\n"
このとき、aとb(正しくはaの指している文字列とbの指している文字列)は同じでしょうか? これはちょっとむずかしい問題です。
そこで、どちらを基準に考えているかによって2種類の「同じ」を判断する計算が必要になります。
a.eql?(b)
=> aとbが同じ文字列ならtrue、違う文字列ならばfalsea.equal?(b)
=> aとbが同じインスタンスならtrue、違うインスタンスならば(文字列として同じであっても)falseeql?
とequal?
は文字列のメソッドです。
実は==
も文字列のメソッドで、a == b
はa.==(b)
というメソッドだとして評価されます。
Rubyではメソッド名にアルファベットや数字だけでなく==
や?
のような記号も使えるのが面白いところで、長所です。
この==
メソッドとeql?
は、ほぼ同じです。
詳しくはRubyのドキュメントを見てください。
このように==
という論理演算子はRubyではメソッド.==( )
に直されて評価されるのはなぜでしょうか(==
のようなメソッドと別形式が用意されているときその別形式を糖衣構文またはシンタックス・シュガーといいます)。
それは「同じ」ということの意味がオブジェクトごとに違うからです。
また、実装上も==
をオブジェクトごとに定義するのが楽です。
(むしろ、一般的な==
演算子を作り、どのオブジェクトにも通用するようにするのは事実上無理です)
同じことは+
という演算子についてもいえます。
実はこれも糖衣構文で
10 + 5 => 10.+(5)
このように整数のメソッドに直して評価されます(メソッド名が+
)。
整数の場合は算術的な加算としてメソッドが定義されていますが、文字列では連結としてメソッドが定義されています。
"abc" + "def" => "abc.+("def") => "abcdef"
他のオブジェクトでも+
メソッドを定義することができます。
加算がオブジェクトごとに意味づけられるというのは面白い考えです。
さて、整数の場合は文字列と違って可変ではありません。 このとき同じ整数を表すインスタンスを複数作るのは非効率です。 そこで整数の場合はあるひとつの整数を表すインスタンスは一つしか存在しません。
print 100.object_id
print "\n"
print 100.object_id
print "\n"
これを実行すると
201
201
となります。 1行目の整数100と3行目の整数100は同じオブジェクトidなので、インスタンスとしても同じとわかります。
Rubyの変数はオブジェクトを指しているだけで、変数自体に型はありません。
Cの場合は変数に型がかならず付けられます。
int n;
n = 10;
変数nはint型(整数型)として定義されます。
このとき、Cではnに対して整数を格納できるサイズのメモリを割り当てます。
n=10;
の代入文で、そのメモリに10が格納されます。
このようにCでは型とメモリが変数に結びついています。
int a, b;
a = b = 100;
このとき、aとbはそれぞれメモリを割り当てられて、100はそれぞれのメモリに代入されます。 このあと、aのメモリを変更してもbの値は変わりません。
Rubyの場合は
a = b = "free\n"
a[0] = "t"
aとbは同じオブジェクトを指しているので、aがオブジェクトの内容を変更すると、bも同じものを参照しているので内容が変わります。
C言語習得者がRubyを習うと、このあたりで躓くことが多いと思います。 Rubyの変数はCのポインタのようなものだと思うとわかりやすいと思います。
さて、最後に「オブジェクト」と「インスタンス」についてもう一度。 今回は「インスタンス」を多用しましたが、Rubyのドキュメントでは「オブジェクト」の方が多く用いられています。 今後もそのときの文脈でどちらかを選択して使いますが、意味は同じだと考えてください。
単項マイナスとは 単項マイナスと括弧 括弧なし単項マイナスを許容する場合のBNF calcの場合
パーサ・ジェネレータとは 少し複雑な文法 四則(加減乗除)計算のBNF Racc で実装 クラス定義、BNFの記述部分 ヘッダー、インナー、フッター コンパイルと実行 演算子の優先順位と結合における左右の優先順位 まとめ
StrScanライブラリのドキュメント 字句解析とは StrScanライブラリ StrScanライブラリを使った字句解析 実例
lbtというgemを作って公開してみた lbtはどんなgemか ファイルの配置 lbt.gemspec Rakefile gemのビルド RubyGems.orgへのアップロード 補足・・rake/gempackagetaskサブライブラリについて
文字列のエンコーディングに頭を悩ませることはほとんどなくなりました。 なぜなら、どのアプリ、システムもUTF-8を使うようになったからです。 Rubyでもエンコーディングの問題が起こることはまず無いでしょう。 ですが、今回はエンコーディングの考え方を整理してみたいと思います。
Fiberを書いたときから、次はスレッドを書こうと思っていましたが、時間がかかってしまいました。 その理由は、期待したとおりのスレッドの効果がなかったためです。 今回はそのことを書きますが、これはRubyのスレッドの抱えている問題なのか、自分のやり方が悪いのかははっきりしていません。
Fiberは「ノンプリエンプティブな軽量スレッド」とRubyのマニュアルに記載されています。
今回はRubyプログラムから自動的にドキュメントを作成するRDocについて書きたいと思います。 私はこのことについて、エキスパートではありません。 この記事も、初心者の体験談だと考えてください。
Ruby/Gtkの記事を先日書いたときに、「これはかなり使える」という手応えを感じたので、WordBook(Railsで作った単語帳プログラム)のGTK 4版を作りました。 プログラムは「徒然なるままにRuby」のGitHubレポジトリに置いてあります。 レポジトリをダウンロードし、ディレクトリ_example/...
今回はGTK 3とGTK 4をRubyで使うライブラリについて書きたいと思います。
今回もRubyとGUIのトピックです。 Glimmerを取り上げます。
Rubyはグラフィックについて弱い印象があります。 しかし、グラフィックはデバイスに関することなので、言語そのものには直接の関係はないはずで、あるとすればライブラリです。 今後グラフィック関係のgemが開発されることに期待しましょう。
Rails7におけるシステムテストについて書きます。
前回作ったWordbook(リソースフル)のテストを書いてみます。 RailsのテストはminitestをRails用に拡張したものです。
今回はRailsの慣例に沿った形でWordbookを作り直します。
今回はWordBookの検索と削除についてです。
今回はRailsにおけるデータの作成と保存、そして変更について説明します。 そのベースになるモデルとデータベースの話から始め、appendとchangeの動作について詳しく説明します。
一般に、HTMLは文書の構造を表し、CSSはその体裁(見栄え)を表します。 Railsは最終的にCSSを含むHTML文書を出力するので、この2つについての理解が必須です。 この記事ではとくにCSSの人気ライブラリであるBootstrapを紹介します。 BootstrapはJavascriptも含んでいます。
Rubyの最も人気のあるアプリケーションであるRuby on Railsを取り上げようと思い、書き始めました。 予想してはいましたが、相当な分量になってしまいました。 そのため、何回かに分けて記事にすることにします。 また、対象となる読者のレベルをどうしようかと考えましたが、「徒然Ruby」が基礎的な内容から始ま...
Rubyのライブラリ管理システムのRubygemsとコマンドgemおよびbundlerについて説明します。
minitestについて連続して2回書いてきました。 「minitestはドキュメントが少ない」という人がいますが、私も同感です。 例えば、モックとスタブの説明も少ないです。 そこで、今回はmock.rbのソースコードを参考に、モックの私的ドキュメントを書いてみました。 あくまで私個人の考えであり、minites...
今回もminitestの話です。 mockとstubに焦点をあて説明します。
アプリ作成の記事でminitestを使いました。 今回はminitestについて、また一般にテストについて、私の考えを書こうと思います。
今回はメソッドの呼び出し制限ついて説明します。 呼び出し制限にはpublic、private、protectedの3つがあります。
今回は特異メソッド、特異クラス定義、名前空間、モジュール関数について説明します。
2023/10/29 追記:この記事は新しく書き直しました。 古い記事で使っていたGitHubのCalcが大幅にアップデートされたためです。 そこで、この記事に合うようなプログラムsimple_calcを新たに作りました。 このプログラムは本レポジトリの_example/simple_calcにあります。
if〜elsif〜・・・〜else〜endは皆さん良く使うでしょうか? これは場合分けで良く使われる方法です。 これと同様の制御構造にcase文があります。 Cのswitch文に似ていますが、より強力な機能を持っています。 if-else-endよりも高い能力があるといえます。
Procオブジェクトを生成するメソッドlambdaについて説明します。
今回はブロックを一般化したオブジェクトProcを説明します。
ブロック付きメソッドの作り方を説明します。
モジュールには名前空間とミックスイン(Mix-in)の2つの機能があります。 ここではミックスインについて説明します。
クラスの親子関係
Rubyの演算子とその再定義について書きます。
今回からクラスとインスタンスを定義、生成する方法を説明します
Kernelモジュールのメソッドはどこでも使うことができます。 そのメソッドの中には便利で有用なものが多いです。
ここでは私が便利だと思ったメソッドを紹介します。
実数
今回はシンボルとハッシュについて説明します。
文字列は最も使うオブジェクトのひとつです。 特にウェブ・アプリケーションでは、コンテンツだけでなくHTMLのタグやCSSを含めすべてが文字列です。 Rubyは文字列オブジェクトのメソッドが充実しており、またパターンマッチのための正規表現も充実しています。
配列は、どのプログラミング言語にもあると思います。 複数の要素を一括して扱うことができるのが配列です。 Rubyの配列はメソッドが充実しているので、プログラムを効率的、機能的に書くのに役立ちます。
今回の目標はインスタンスです。 インスタンスを説明するために、ローカル変数と文字列オブジェクトを事前に扱います。
今回はメソッド定義です。 メソッド定義はRubyの核心ですが、今回はトップレベルに限って説明します。 この限定によって、内容はかなり易しくなっています。
ブロックはRubyの特長です。 ブロックのおかげで記述が非常にすっきりと分かりやすくなります。 今回はブロックをイテレータの本体として使う方法を説明します。
ここではRubyの最も基本的なオブジェクトである整数について説明します。
「徒然なるままに」をネットで調べてみると、「することもなく、手持無沙汰なのにまかせてという意味」とありました。 まさに、自分の現状を言い当てた言葉。 しかも、ブログに書くネタもなかなか思いつかない日々。